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福岡高等裁判所 昭和49年(ネ)20号 判決 1975年1月28日

主文

一  本件控訴並びに被控訴人(付帯控訴人)の付帯控訴に基づき、原判決を左のとおり変更する。

(1)  控訴人(付帯被控訴人)は被控訴人(付帯控訴人)に対し、金三七〇万四、〇〇一円及び内金三三五万四、〇〇一円に対する昭和四二年四月二七日から、内金三五万円に対する本判決言渡の翌日から、いずれも支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  被控訴人(付帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人(付帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(付帯控訴人)の負担とする。

三  主文一(1)項は仮りに執行することができる。

事実

控訴人(付帯被控訴人、以下控訴人という)代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人(付帯控訴人、以下被控訴人という)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、付帯控訴に対し、付帯控訴を棄却する。付帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求め、付帯控訴により請求の拡張をなし「原判決を左のとおり変更する。控訴人は被控訴人に対し金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和四二年四月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の関係は次のとおり訂正付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  被控訴人の主張

1  損害額の訂正について、

原判決事実摘示の請求原因二の損害、同三の損害填補同四の結論の各項を次のとおり訂正する。

二  損害

1  療養関係費 一万四、一五〇円

入院夜具代 一万三、〇〇〇円

買薬代 一、一五〇円

2  休業損害 一九二万円

被控訴人は昭和三〇年一二月五日二級ガソリン自動車整備士の技術検定に合格し、事故当時一カ月につき六万円の収入を得ていた。ところが本件事故のため昭和四二年四月二六日から昭和四四年六月三〇日まで入院し、爾後同年一二月二八日まで通院加療及び自宅休養を続け、その間就労することができず、一九二万円の損害を蒙つた。

3  労働能力低下による逸失利益 五八八万一、七五〇円

被控訴人は二級ガソリン自動車整備士の技能検定に合格し、少くとも毎年賃金センサスによる旧中学、新高校卒年齢別平均賃金(第一表=パートタイムを含む)程度の収入を挙げ得たと思われる。

しかるとこころ、被控訴人は本件事故により(一)左足関節強直、(二)左下腿五センチメートル短縮、足関節上一〇糎で一六〇度内湾、(三)左膝関節運動制限、(四)左下腿下部足部の高度血行障害と著明な自発痛の各後遺障害があり、(一)の後遺障害は自賠法施行令別表の八級七号に、(二)は八級五号に、(三)は右別表の等級表に該当しないが、(四)は一二級一二号に各該当するから、同法施行令第二条一項二号ハによつて、少くとも二級上の六級該当の後遺障害と認定さるべきものである。

そうすると被控訴人は右後遺障害のため、極めて内輪に見ても、その収入は右平均賃金より今後毎年五〇万円を下廻ること明らかであるから、被控訴人の労働能力低下による逸失利益の総額は次の算式により八四六万六、二一九円を下廻ることはない。

すなわち、計算の便宜のため

(A)  昭和四五年一月(負傷が一応治癒し、稼働可能となつたとき)から昭和四八年一二月までの四年間は、原審の認定に従い年三三万の減収として計算すると、

33万円×3.5643(4年のホフマン係数)=117万6219円

(B)  昭和四九年一月より稼働可能な六三歳まで二二年間につき年五〇万円の減収として計算すると、

50万円×14.5800(22年のホフマン係数)=729万円

(C)  右の(A)+(B)=八四六万六二一九円

となる。

被控訴人は右損害額のうち五八八万一、七五〇円を請求するが、判決認容総額が一、〇〇〇万円に満たないときは、それに満つるまで八四六万六、二一九円の損害を拡張請求する。

4  慰藉料 三〇〇万円

被控訴人は中村自動車販売有限会社の主宰者兼整備主任であつたが、本件事故のため、右会社を解散しその事業を放棄するほかなき状態となり、生活扶助、教育扶助、医療扶助により最低生活を送つている状態である。いつの日、自力再起をなしうるか暗たんたる毎日を送つている。以上のとおりで被控訴人の後遺障害の程度及び精神的、肉体的苦痛に対する慰藉料の額としては三〇〇万円が相当である。

5  弁護士費用(予備的請求) 一〇〇万円

(一)  被控訴人は、本件訴訟提起に当り、財団法人法律扶助協会を通じて福岡県弁護士会久留米部会所属沖藏弁護士に訴訟の追行を依頼し、更に、控訴人の本件控訴に伴つて同弁護士会福岡部会所属の被控訴代理人に控訴審における訴訟追行を依頼し、沖弁護士に三万五、〇〇〇円、森弁護士に五万五、〇〇〇円を支払つたほか、謝金としては一、二審を通じて控訴人より支払いを得た額の一五パーセントの支払を約している。

(二)  従つて弁護士費用のうち一〇〇万円は本件事故と相当因果関係ある損害というべきであるので、前記1ないし4の各損害認容額の合計が一〇〇〇万円に達しないときは、予備的に右弁護士費用一〇〇万円を一、〇〇〇万円の認容額に満つるまで損害として請求する。

三  損害填補 八一万五、九〇〇円

被控訴人は控訴人から昭和四二年六月三〇日から昭和四四年九月一〇日までの間、前後四九回にわたり、八一万五、九〇〇円の支払を受け損害の填補がなされた。

四  よつて、控訴人は被控訴人に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四二年四月二六日以降支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

2 過失相殺について

被控訴人に過失相殺さるべき過失はない。すなわち、

(一)  被控訴人がチエンジレバーを中立にしなかつたことは、正しい駐車方法である。

(1)  チエンジレバーを第一速(ロー)の位置に入れたままエンジンを停止させると自動車の車輪はエンジンと直結し、エンジンが廻らない限り車輪も廻らない。従つてサイドブレーキが故障している場合であるとか、あるいは、斜面に駐車する必要があつて、サイドブレーキに全面的に頼り難いときには、駐車のための有効な方法である。

(2)  本件事故車両のサイドブレーキは当時調整中であつた。

(3)  本件事故発生の広場は、被控訴人らが経営する自動車整備工場内にあつて、わずかに、水はけのために傾斜がつけてあつた。

このように、被控訴人が事故車両のチエンジレバーを中立にせずに、第一速に入れて広場に駐車させたことは、全く誤つたところのない正しい駐車方法である。

(二)  被控訴人が本件事故車のサイドブレーキを引かなかつたことも、サイドブレーキを調整中であつたから、当然のことである。

(三)  エンジンの鍵を抜いていなかつたこと、車輪に歯止めをしなかつたとの点も、本件広場が自動車整備工場内で本件自動車が整備中の車両であり、また、広場の傾斜が極めてゆるやかであつて、前記のとおり、チエンジレバーを第一速に入れて歯止めの効果が出ているのであるから、それぞれ当然のことであつて、これらはなんら被控訴人の過失ではない。

3 労働者災害補償保険、並びに厚生年金保険の休業補償、後遺障害補償給付について、

控訴人主張内容の給付があつたことは認める。しかし、かりに右給付金が損害の一部填補とみられるとしても、被控訴人の本訴における逸失利益は、その後遺障害の程度(労働基準局長通達による六級の後遺障害者の労働能力喪失率は六五パーセント)に比し極めて控え目に算定しているから、これら障害給付があつたことを考慮しても、なお被控訴人主張の逸失利益が生じたと認定されるべきものである。

二 控訴人の主張

1  被控訴人の右1、2の主張は争う。

2  損害填補について、

(一)  被控訴人は労災保険の休業補償として総額七一万四、六六〇〇円を受給しているから少くとも同額だけ休業損害は填補されている。

(二)  被控訴人はまた、労災保険及び厚生年金保険の各障害補償として、昭和四四年七月より同四九年三月までの間に、別表記載のとおり総額一八二万一、七三二円を受領しているから、被控訴人の労働能力喪失に基づく損害は同額だけ填補されている。

(三)  右障害補償給付額は、逐次増額され、現在は年額五二万九三一四円となつているから、被控訴人の年間逸失利益額が五〇万円であれば、優にこれを填補し得るものである。以後逸失損害額の生ずる余地はない。

三  証拠〔略〕

理由

一  事故の発生及び控訴人の責任

被控訴人主張の請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実によると、控訴人は民法七〇九条により、本件事故によつて被控訴人が蒙つた損害を賠償する責任がある。

二  被控訴人の損害

1  療養関係費 一万四、一五〇円

原判決九枚目表一二行目から同裏二行目までのとおりであるから、これを引用する。

2  休業損害 一九二万円

原判決七枚目裏七行目から同八枚目表二行目までのとおりであるからこれを引用する。(但し、同七枚目裏一二行目に「後記認定のとおり」とあるのを「成立に争いのない甲第七号証によると、」と改める。)

3  労働能力低下による逸失利益 五八六万五、〇四〇円

成立に争いのない甲七、八号証、同一一号証、当審における被控訴本人尋問の結果によつて成立の認められる同一三号証、原審並びに当審における被控訴本人尋問の結果を総合すれば、被控訴人は本件事故前に二級ガソリン自動車整備士の資格を取得し、父が社長である中村自動車販売有限会社に整備主任者として勤め、事故当時月額六万円(賞与を除く)の収入を得ていたのであるが、本件事故によつて受けた左下腿複雑骨折のため、左下腿部に、左下腿部の五糎短縮、足関節骨性強直、左膝関節運動制限、左尖足趾、左下腿足関節約一〇糎部で一六〇度の内湾、左下腿下部足部の高度血行障害、著明な自発痛を残す後遺障害(以上の後遺障害は全体として自賠法施行令別表後遺障害等級表の七級一〇号程度のものと認める。)を有し、本件事故後整備士としての仕事につくことが不可能となり、生涯軽作業にしか従事し得ない状態となつたこと、そのため、前記入通院による加療の後、昭和四五年一月五日車両整備株式会社に入社し、同日から同年三月まで日給八〇〇円、同年四月から昭和四六年二月まで日給一、〇〇〇円、同年三月から昭和四七年二月まで日給一、一〇〇円、同三月から同年七月まで日給一、二五〇円、同年八月以降日給一三〇〇円の収入で、月平均約二六日稼働したこと、そして本件事故前の収入の程度からすれば、本件事故当時満三四歳の健康な男子であつた被控訴人が本件事故後再就職した満三七歳からその平均余命の範囲内である満六三歳まで稼働し得たことがそれぞれ認められるほか、近時の社会経済情勢に徴し、被控訴人が従前どおり中村自動車販売有限会社に整備主任として勤務していたとすれば、右期間内に月給が順次増加したであろうことも容易に推認されるから、被控訴人の昭和四五年一月以降満六三歳まで二六年間の労働能力低下による逸失利益の算定に当つては、事故前の収入を月六万円と固定する一方、事故後の収入も月二万六、〇〇〇円(前記期間中の日給額、稼動日数、後遺障害等級の労働能力喪失率が五六パーセントであること等を考え、日給一、〇〇〇円に二六日を乗じた額とする。)と固定し、その間の差額三万四、〇〇〇円に右就労可能期間を乗じて算出するのが相当と思料される。そうすると、被控訴人のその間の労働能力低下による逸失利益額の現価は、次の算式により、五八六万五〇四〇円となる。

算式

(34,000円×12)×14.3751=5,865,040円

註 14.3751は26年の法定利率による複利年金現価係数

4  慰藉料 二〇〇万円

以上認定したところにより認められる本件事故の態様、被控訴人の障害の部位程度、入通院の期間、後遺障害の程度等によると、被控訴人が本件事故により蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては金二〇〇万円が相当である。

三  過失相殺

1  当事者間に争いのない請求原因一の事業に、原審における証人仁田原修一の証言、控訴人、被控訴人各本人尋問並びに検証の結果及び弁論の全趣旨によると、被控訴人は本件事故当日より四日程前に、中古車を買いに来た控訴人との間に、本件事故車両売買の交渉をなし、本件事故車両のサイドブレーキの修理、キヤブレーター(気化器)のスローが高いのでこれの調整などをして正式に売買契約を終結する手筈であつた。被控訴人は本件事故当日、本件事故現場たる洗車場で本件事故車両を修理調整中であつたが、控訴人が売買契約締結に必要な印鑑証明書を持参したので、被控訴人はサイドブレーキを引かず、エンジン始動スイツチの鍵をさしたまま、ギヤ・チエンジレバーもニユートラルにしないで、本件事故車両を離れて事務所へ赴いたのち、手洗のため本件事故車両の前方約二・八米のポンプ場に行つて手洗を始めた。その折、控訴人は本件事故車両のエンジンの調子を確めてみたいと考え、ギヤ・チエンジレバーがニユートラルに入つていること及びサイドブレーキが引かれていることなどを確めもせずに、運転席のシートに半分腰掛けた恰好でエンジン始動スイツチを入れたため、車両に歯止もされていない本件事故車が突然暴走し、控訴人はフートブレーキを踏むことも出来ないまま本件事故車両を被控訴人に衝突させ、被控訴人に前記の傷害を負わせたものであることが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

右事実によると、サイドブレーキが引かれていること及びギヤ・チエンジレバーがニユートラルになつていることも確認せず、しかも急制動もなし得ないような恰好で運転席に座り、直前方に被控訴人が手洗いしているのに、漫然エンジン始動スイツチを入れた控訴人の過失は重大である(控訴人が過失の存在を争わないこと前認定のとおり)が、被控訴人としても、本件事故車両の修理整備に当つていたものとして、その性能、整備不良個所を知り、エンジン始動スイツチを入れただけで発進することが起りうることも予測し得た状況にあつたといわねばならないから、たとえ、修理中で現場が洗車場内であつたとは言え、エンジン始動スイツチが入つただけで本件事故車が突然発進することによつて事故の発生することを未然に防止すべき措置を講じておくべき義務があつたというべきである。しかるに、被控訴人は、本件事故車両を購入すべく、本件事故車両に最も関心を持つている控訴人が来ていたのに、エンジン始動スイツチの鍵を抜かず、サイドブレーキも引かなければ(サイドブレーキの修理が完了していたかどうかは証拠上明らかでない。)ギヤ・チエンジレバーをもニユートラルにしないまま、本件事故車両を置いておき漫然その前方で手洗をなしたことは、本件事故車両の整備に当つていたものとして過失を免れず、前記控訴人の過失と対比するとき、その過失割合は、控訴人、七割に対し被控訴人三割と認めるのが相当である。

被控訴人は、サイドブレーキが調整中であり、本件事故現場は傾斜があつたから、ギヤ・チエンジレバーをローの位置に入れて駐車しておくことは正しい駐車方法であり、被控訴人に過失相殺さるべき点はない旨主張するけれども、前掲証拠によると、本件事故現場は水はけのためのわずかな傾斜があつた程度に過ぎないから、被控訴人主張の如き駐車方法が適切であつたとは断ぜられないうえ、かりにサイドブレーキが未調整でサイドブレーキに頼れない事情にあつたにしても前叙認定の情況のもとにおいては、事故発生を未然に防止するに必要な措置として、少くともエンジン始動スイツチの鍵を抜いておくべきであつたから右鍵を抜かずにおいていた被控訴人の過失は免れないものというべきである。被控訴人の右主張は採るを得ない。

2  そうすると、被控訴人の前記の損害合計額は九七九万九、一九〇円であるから、同金額に被控訴人の過失割合を乗じて被控訴人の損害を過失相殺すれば、被控訴人の損害は六八五万九、四三三円となる。

四  損害填補

1  被控訴人が控訴人から損害の填補として八一万五、九〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、被控訴人の前記損害額から右金額を控除すべきである。

2  また、控訴人が中村自動車販売有限会社に代つて労働者災害補償保険の保険料一五万三、二〇〇円を支払つたことも当事者間に争いがなく、原審における控訴本人尋問の結果によると、右金員の立替払は被控訴人の妻の依頼により被控訴人が労災保険給付を受給できるようにするために、本来、控訴人が支払う必要がなかつたものを支払つたことが認められるから、控訴人の前記会社のためにする保険料の立替払が直接被控訴人の損害を填補するものではないとはいつても、原審における被控訴本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると右会社は被控訴人が主宰する個人会社的色彩の強い会社であることが窺えるから、控訴人が右会社のためにした保険料立替金も、被控訴人の損害填補に充当されたものと認めるのが相当である。従つて、控訴人の右保険料立替金も、被控訴人の前記の損害額から控除さるべきである。

3  更に、被控訴人が労災保険から休業補償として七一万四、六〇〇円を、労災保険及び厚生年金保険から昭和四九年三月までの間に障害補償として別表記載のとおり総額一八二万一、七三二円の給付を受けていることは当事者間に争いがない。

ところで労働者災害補償保険法二〇条、厚生年金保険法四〇条の規定に徴すれば、労働者災害補償保険法上の政府の労災補償責任並びに厚生年金保険法上の政府の年金給付責任はいずれも不法行為者たる第三者(本件では控訴人)の民法上の損害賠償責任と相互補完の関係にあるとみることができるので、政府が現に右各保険法上の保険給付をなして、国か第三者たる控訴人に対し損害賠償請求権を取得した限度で、右各保険受給者(本件では被控訴人)の控訴人に対する損害賠償請求権は減縮するものと解する。

控訴人は、将来に亘つて支払われる右障害補償給付額は、逐次増額され、現在、年額五二万九、三一四円であるから、被控訴人に以後逸失損害の生ずる余地がない旨主張するが、右障害補償給付は、現に給付を受けた限度においてのみ、被控訴人の前記損害が填補されたものとみるべきであり、将来給付額を算定して被控訴人の前記損害から控除すべきでないから、控訴人の右主張は採るを得ない。

そうだとすると、被控訴人が休業補償及び障害補償として給付を受けた合計額二五三万六、三三二円は、被控訴人の前記損害額中の休業損害及び労働能力低下による逸失利益額から控除すべきである。

4  そうすると、前記過失相殺後の損害額六八五万九、四三三円から前記1、2、3の各損害填補額の合計三五〇万五、四三二円を控除した三三五万四、〇〇一円が被控訴人の残存損害額となる。

五  弁護士費用 三五万円

被控訴人は、当審において本件事故による損害賠償として認容される損害額が、一、〇〇〇万円に満たない場合は、予備的に弁護士費用も本件事故と相当因果関係ある損害として請求するところ、被控訴人が控訴人に賠償請求をなしうる残存損害額が一、〇〇〇万円に満たないこと前叙のとおりであるから、被控訴人が弁護士費用として損害の賠償をなしうる額について更に判断する。

成立に争いのない甲第一六号証、当審における被控訴本人尋問の結果によると、当審における被控訴人の前記主張5(一)の事実を認めることができる。そうすると、本事案の難易前記認容すべき残存損害額、その他諸般の事情を考慮し、被控訴人が控訴人に対し、相当因果関係ある損害として賠償請求をなしうべき弁護士費用は金三五万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上によれば、被控訴人は控訴人に対し、前記認定の残存損害額三三五万四、〇〇一円に弁護士費用三五万円を加算した三七〇万四、〇〇一円及び内金三三五万四、〇〇一円に対する本件事故発生日の翌日たる昭和四二年四月二七日から、内金三五万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の翌日から、いずれも支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余(付帯控訴による請求拡張部分を含む)は失当であるのでこれを棄却すべきである。

よつて、右と結論を異にする原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 鍬守正一 松島茂敏)

別紙 <省略>

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